アゴタ・クリストフの小説を読むということ

アゴタ・クリストフは不思議な作家です。彼女は、ハンガリー動乱の際に、乳飲み子を抱えて夫と共にスイスに亡命しました。その時、わずか21歳。それからの長い年月を、時計工場で働きながらフランス語を習得したのです。

2冊続けて読みました。
 5月8日に 「文盲」 (白水社)
 5月9日に 「昨日」 (早川書房)


彼女の書く小説には、余分な修飾語がほとんどありません。それは、彼女の使っている言葉が母国語ではないことと大いに関係しています。母国語の世界に生きていた頃、彼女は「読む」人でした。そして、兄弟に向かって作り話を「語る人」でもありました。思春期を迎え、家族から離れて一人で寄宿舎暮らしを余儀なくされた時、彼女はついに「書き」はじめます。
それから処女作「悪童日記」が出版されるまでの年月のなんと言う長さ!彼女は母国語を失ったにもかかわらず、新たに習得した敵語で小説を書くに至ったのです。

外国で暮らすことは、それまでの自分を捨てることです。一番つらいのは、自分の考えや感情を説明する力を失ってしまうこと。母国語を使っていた時と比べて、なんと貧しい表現しかできないのだろう。でも、アゴタはあきらめない。

 私は言うだろう。
 「調べてみるわ」
 そして私は、倦むことなしに何度でも辞書を引く。
 


自分を上手く表現できない時間が続くと、まるで自分が知恵遅れになったように感じてしまいます・・・そんなの時の絶望に近い気持ちを私は知っています。自分が望んで外国暮らしを始めたにもかかわらず、いえ、だからこそ余計に、焦燥感が募るのです。
  私はこんな程度の人間じゃない。
  私は大きな赤ん坊じゃない。
  あなたよりも、はるかにモノを知っているの。
  今の私の言葉のレベルで、私という人間を判断しないで・・・
母国語と切り離された時、人は孤独の本当の意味を知るのだと、若い日の私は思ったものでした。

そんな感慨はさておき、だまされたと思って、まぁ一度アゴタ・クリストフの本を読んでみてくださいな。

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CATEGORY : | THEMA : ブックレビュー | GENRE : 本・雑誌 |

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