理想のカテイ

大辞林によれば、理想とは、「考えうるかぎり最もすばらしい状態」とあります。皆さん、理想の相手とめぐり合いましたか?理想の家庭は手に入れられましたか?

ドリス・レッシング 「破壊者ベンの誕生」 (新潮文庫)

ドリス・レッシングは、昨年のノーベル文学賞を受賞しましイギリス人の女流作家です。この文庫本は、それで「緊急復刊」されたとのこと。この物語からは、長いキャリアを持つレッシングがどんな作家なのか、見当が着きません。

パーティーで知り合って結婚した平凡なふたりは、友人や親戚が訪ねてくれる賑やかな家庭が理想でした。だから、分不相応に大きな家も手に入れたし、親にも有形無形の援助をしてもらったし、多少の不便は忍んできました。次々に生まれた4人の子供と、訪ねてくれる親や親戚に囲まれて、彼らは、理想の家庭を手にしたつもりでした。でも、5番目の子供ベンがすべてをぶち壊したのです。妊娠中も、耐え難いほどの苦痛を味わったというのに、生まれてきた子供は、親でさえも自分の子供とは思いたくないほど、気味の悪い子供でした。

それでも、母親のハリエットはベンを他の子供たちと同じように育てようとします。反発したベンの兄弟たちは、祖父母の家にそれぞれに自分の居場所を見つけて家を離れ、空っぽの大きな家は理想の家庭とは程遠いものになってしまいました。ハリエットでさえ、実は密かに、ベンは異星人か、ゴブリンのような人間とは違う種族の生き物ではないかと疑っているのですが・・・

デイヴィッドとハリエットの夫婦にとって、家庭は、大きな家という入れ物のことでした。大きな家があれば、そこに住むのは理想の夫婦であり、理想の家庭が営まれるはずでした。作者は、あえて逆説的にこんな夫婦を登場させたのでしょうか・・・そんな家庭が壊れていくさまを、突き放すように描いていくこの物語は、考えようによってはとても思索的。

夫だって妻だって、相手に知られないように密かにゴブリンの一匹や二匹、心の中に飼っているのかもしれませんしね、なんて。

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